もの忘れ・認知症
もの忘れ・認知症とは
認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。
認知症にはいくつかの種類があり、治療可能な場合もあります。また、一般の方が「もの忘れ」を、「加齢によるもの忘れ」なのか「認知症の初期症状のもの忘れ」なのかを見極めることは困難なため、もの忘れを「歳のせいだから仕方ない」と決めつけずに、ご相談いただきたいと思います。
このような症状、ご相談ください
●もの忘れ(記憶障害)
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数分前、数時間前の出来事をすぐ忘れる
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同じことを何度も言う・聞く
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しまい忘れや置き忘れが増えて、いつも探し物をしている
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約束を忘れる
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昔から知っている物や人の名前が出てこない
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同じものを何個も買ってくる
●時間・場所がわからなくなる
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日付や曜日がわからなくなる
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慣れた道で迷うことがある
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出来事の前後関係がわからなくなる
●理解力・判断力が低下する
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手続きや貯金の出し入れができなくなる
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状況や説明が理解できなくなる、テレビ番組の内容が理解できなくなる
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運転などのミスが多くなる
●仕事や家事・趣味、身の回りのことができなくなる
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仕事や家事・趣味の段取りが悪くなる、時間がかかるようになる
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調理の味付けを間違える、掃除や洗濯がきちんとできなくなる
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身だしなみを構わなくなる、季節に合った服装を選ぶことができなくなる
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食べこぼしが増える
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洗面や入浴の仕方がわからなくなる
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失禁が増える
●行動・心理症状(BPSD)
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不安、一人になると怖がったり寂しがったりする
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憂うつでふさぎこむ、何をするのも億劫がる、趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなる
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怒りっぽくなる、イライラ、些細なことで腹を立てる
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誰もいないのに、誰かがいると主張する(幻視)
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自分のものを誰かに盗まれたと疑う(もの盗られ妄想)
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目的を持って外出しても途中で忘れてしまい帰れなくなってしまう
認知症の検査・診断
認知症の診断は問診や以下のような検査を行い、総合的に行います。
認知症の中には一部、治療可能な(治る)認知症が含まれるため、正確に診断することが必要です。
●問診
ご本人、ご家族から症状をうかがいます。
●認知機能検査
MMSE(ミニメンタルステート検査)、長谷川式認知症スケール(HDS-R)などを用いて記憶障害などを調べます。
●脳画像診断検査
記憶の中枢である脳の海馬に特異的な萎縮があるかどうか調べます。(VSRAD)
●一般的身体検査
必要に応じて血液検査や心電図検査、感染症検査、X線撮影などを行います。
認知症の種類と治療
根本的治療が困難な認知症
変性性認知症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症)の根本的な治療法はありませんが、薬物療法や非薬物療法(運動療法、環境調整、デイサービスの利用など)によって症状を軽くして、進行の速度を遅らせることを目指します。
●アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も多いのが、アルツハイマー型認知症です。
脳の中に異常なたんぱく質(アミロイドβペプチド)が蓄積することによって、健康な神経細胞が破壊され、脳が次第に萎縮する病気です。
症状はもの忘れで発症することが多く、ゆっくりと進行します。
●レビー小体型認知症
レビー小体という異常タンパク質が脳の神経細胞に蓄積することが原因と考えられている認知症です。
記憶障害以外に、幻視、体がこわばり動作が遅くなるパーキンソン症状が現われやすく、日によって頭がはっきりしていたりぼーっとしていたりと、症状の変動が大きいのが特徴です。
●前頭側頭型認知症(ピック病)
前頭葉と側頭葉の萎縮が徐々に進行し、人格の急変が特徴です。
盗癖や無銭飲食など本来ならば罪悪感や羞恥心を示す行為を平気に行うようになったりします。
予防・治療が可能な認知症
●血管性認知症
脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの脳卒中が原因で起こる認知症です。
脳の病変の場所によって、手足の麻痺、ろれつが回らないなど様々な身体症状が起こってきます。
脳卒中を繰り返すとそのたびに認知症も悪化してしまうため、再発予防により進行を抑制します。
●正常圧水頭症
脳脊髄液が脳室にたまり、脳室が拡大して周囲の脳が圧迫されて起こる病気です。
歩行障害や尿失禁、認知症などの症状が現れることがあります。
手術により症状を改善が期待できます。
●慢性硬膜下血腫
頭を軽く打った後などに、頭蓋骨と脳の間に血の塊が生じて、脳が圧迫されて起こる病気です。
頭を打ってから1~2ヵ月後に血腫が脳を圧迫した結果、頭痛、物忘れ、認知症症状などの精神症状、失禁、半身に力が入らない、歩行障害などの症状が現れることがあります。
手術により症状を改善が期待できます。
●甲状腺機能低下症
新陳代謝を高める作用のある甲状腺ホルモンの分泌量が不足して、からだの活動力が低下する病気です。
無気力、疲労感、むくみ、寒がり、体重増加、動作緩慢、記憶力低下、便秘などの症状が現れることがあります。
甲状腺ホルモンの補充で改善が期待できます。
●その他の疾患による認知症
ビタミンB1欠乏症・ビタミンB12欠乏症・葉酸欠乏症などの欠乏性疾患・代謝性疾患、自己免疫性疾患、呼吸器・肝臓・腎臓疾患、神経感染症など内科的疾患によって起きる認知症があります。
それぞれの疾患に対して適した治療を行うことで、認知症の改善が期待できます。
軽度認知障害(MCI)について
認知症のように普段の生活に支障をきたすほどではありませんが、記憶などの能力が低下し、正常とも認知症ともいえない状態のことを「軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)」と言います。
MCIの方の約半数は5年以内に認知症に移行すると言われていますが、この段階から運動などの予防的活動を開始することで、認知症の進行を遅らせることが期待されています。
認知症ではなさそうだと思っても、以前よりもの忘れが増えている、もの忘れの程度がほかの同年齢の人に比べてやや強いと感じたら、念のために専門医を受診することが早期発見・早期対応につながります。